アパートで発生した孤独死の損害賠償請求は可能？原状回復費用は？

保有する賃貸アパートの中で孤独死が発生した場合、原状回復や特殊清掃費用などいろいろなコストがかかります。

また状況によっては事故物件となり、家賃の値下げをしなくてはならなくなるかもしれません。

この場合、入居者の遺族に損害賠償請求できるのかについてここでは見ていきます。

アパートで発生した孤独死の損害賠償請求は可能？

結論から言ってしまいますが、孤独死した入居者の遺族や連帯保証人に対して、損害賠償請求はできないと思ってください。

国土交通省のガイドラインによると、原状回復とは「賃貸借人の故意や過失、善管注意義務違反などによる損耗を復旧する行為」と定義しています。簡単に言えば、通常ではない仕様に伴い何らかの損害が発生した際に請求できるという意味です。

もし入居者の過失に寄らない孤独死であれば、損害賠償請求はできないわけです。人間いつか死を迎えるからです。そこに過失や故意はないので、損害賠償の対象にはなりません。

事故物件になっても請求はできない 

孤独死の起きた部屋は事故物件扱いになるかもしれません。事故物件になると、次に物件を貸す際にどうしても家賃を値下げしなければならないでしょう。値下げの損害を被っている以上、損害賠償請求できると思われがちですが、それでも無理です。

入居者の死亡に故意や過失が一切なければ、事故物件になったとしても損害賠償請求はできません。

そもそも孤独死だけでは、事故物件には該当しません。長く遺体が放置され腐敗し、臭気や害虫などが発生し特殊清掃した場合に事故物件扱いになります。

 孤独死で賠償責任を求めることができるケースも 

ここまで見てきたように、孤独死だけの理由で遺族や連帯保証人に対して損害賠償請求はできません。しかしまれですが、孤独死に伴い損害賠償請求できる場合もあります。損害賠償請求できるのは、主に2つの事例です。

まずは過去の社会常識に基づき認められるケースです。もう一つは、借主が故意や過失のなかったことを主張しなかった場合も請求できます。具体的にどのような事例なのか、以下で解説しましょう。

ケース①過去の社会通念では賠償請求ができた

孤独死と損害賠償請求の判決は、過去にいろいろとありました。実は過去の判例を見てみると、借主に故意や過失がないことよりも原状回復義務の方が優先されていた時代がありました。その結果、孤独死による損害賠償が遺族側に請求されました。

ただし現在は、このような判断の下されることはまずないでしょう。現在の司法判断では、借主に故意や過失のないことが損害賠償責任はじめ、何よりも優先されるべき理由になるためです。

ケース②借主側が正当性を主張しなかった

孤独死に伴う損害賠償請求が認められた判例として、借主が孤独死に関して故意や過失のなかったことを主張しなかったケースが挙げられます。裁判になった場合、原告と被告の両者から話を聞き、裁判官がどちらの主張が正しいか判断して、判決を下すのが一般的な流れです。

過去の事例で、借主側は「相続放棄したので損害賠償する必要がない」と主張したことがありました。ところが相続放棄が可能な期間を過ぎてから手続きを行っていたので主張が通らず、損害賠償が認められました。

孤独死発生によって起きる様々な問題

孤独死が発生すると、部屋の貸主はいろいろな問題を抱えることになります。孤独死が発生すれば、その部屋の始末をしなければならないからです。業者にお願いするとなれば、それなりに費用も掛かります。遺体が長らく発見されないと腐敗の恐れも出てきます。

原状回復・特殊清掃費用の発生 

孤独死が発生すると、その部屋の片づけをしなければなりません。まずは孤独死した借主の所有していた残置物の片づけです。また部屋の中も生活のために汚れや劣化もあるでしょうから、原状回復も進めなければなりません。

もし原状回復などを業者にお願いするとなると、それなりの費用を負担しなければなりません。ケースバイケースですが、たいていの事例で数十万円単位の出費は覚悟しなければなりません。

発見の遅れによる遺体の腐敗 

孤独死する人を見ると、周囲とのつながりの弱い人も少なくありません。部屋の中で死亡すると誰にも気づかれずにそのまま放置される恐れもあります。その結果、遺体がどんどん腐敗する恐れもあります。

遺体が腐敗すると、独特の死臭がするものです。また遺体に害虫が群がる危険性もあります。すると原状回復して、再び部屋を貸し出すためには特殊清掃をお願いしなければならないでしょう。

孤独死に対する予防・対策方法

孤独死が発生すると、大変な費用の発生する可能性があります。しかも死人が出たということで、家賃を引き下げざるを得なくなる可能性も出てきます。ただし孤独死させないための対策もあるので、何ができるか検討してください。

見守りサービスを利用する

見守りサービスが現在ではいろいろと出てきているので、こちらを活用するといいでしょう。

自宅にカメラやセンサーを設置します。そしてスマホアプリなどを使って、部屋の中の様子を逐一観察できるサービスです。

カメラ以外にも家電に設置して、操作の有無をキャッチします。もししばらく家電の操作が行われていないと、スマホに通知されます。家電の操作が一定期間行われていなければ、操作できない状況にあると推測されるからです。

近所付き合いをする

孤独死する人を見ると、周りから孤立しているケースが少なくないといいます。病気など体調面で急変した場合、周りに知り合いがいないと助けを求められません。そこで近所付き合いを意識して行うように心がけましょう。

常日頃から周囲の人々と交流があれば、何か困ったことがあれば気軽に相談できます。ご近所と出くわした際には挨拶するといった簡単なところから始めてみるといいでしょう。

デイサービスを利用する

デイサービスの利用も、孤独死対策として有効といわれています。デイサービスは定期的に利用する形になります。もししばらく顔を見せなければ、職員も「何かあったのでは？」と思うでしょう。家族に知らせたり、自分たちで自宅に様子を見に行ったりできるでしょう。

またデイサービスの施設ではリハビリを行ったり、ほかの利用者とレクリエーションで楽しんだりします。いろいろな人と交流して、孤立も防げるわけです。

SNSを始める 

最近高齢者の孤独死を防止する方法として、SNSの活用が注目されています。高齢者になると外出するのがおっくうになるでしょう。SNSであれば、スマホなどその場でいろいろな人とやり取りできるので手軽に利用できます。

例えば子供や孫がいる場合には、LINEなどを使ってやり取りするといいでしょう。また昔からの友人とSNSを介して近況をやり取りするのもいいでしょう。「年寄りには難しい」と思う人もいるかもしれませんが、チャレンジする意欲を持つことも大事です。

市区町村の孤独死対策事業を活用する 

孤独死は社会問題になりつつあって、市区町村の自治体でも独自の対策を始めています。たとえば警察や民生院、ボランティアなどを使った定期的な訪問が挙げられます。

また近所同士の見守り活動を進めている自治体も少なくありません。そして何か気になる点があれば、自治体にホットラインで報告できる仕組みを構築しているところもあります。「郵便物がポストからあふれ出そうだ」「洗濯物を取り込んでいる様子がない」など気になることがあれば連絡し、職員が安否確認する形です。

電球型見守りサービスを活用した孤独死予防策を紹介

孤独死対策をしたければ、HelloLightと呼ばれるサービスを導入するといいでしょう。電球型見守りサービスといわれ、専用の電球を照明器具に設置するだけです。電球内にSIMがあり、操作があればそのデータを発信する形になります。

点灯しっぱなしや点灯しない場合など何か異変があれば、登録しているメールアドレスにメールが送信されます。

このように入居者の異変にいち早く気づけ、適切な対処が可能になるわけです。

まとめ

高齢化社会が進み、孤独死も社会問題化しつつあります。

もし入居者が孤独死した場合、損害賠償は原則請求できないと考えてください。故意や過失で死亡するわけではないからです。

よって、賃貸物件のオーナーも入居者を孤独死させないために、各種見守りサービスを利用するなどの対策が求められます。