高齢者が入れ歯を入れないとどうなる？生活への影響と家族ができるサポート

「親が入れ歯を使っていなくて心配…」
「歯医者に入れ歯を作りに行く元気がないときはどうしたらいいの？」
上記のように高齢者の中には入れ歯を入れずに過ごしている方もいて、心配する家族も少なくありません。

高齢者が入れ歯を使わないまま放置すると、食事・会話・健康にさまざまな影響が出るおそれがあります。

本記事では、入れ歯を入れない高齢者の生活への影響や入れられない理由、家族ができるサポートについて解説します。

入れ歯を入れない高齢者は一定数存在する

年齢を重ねるにつれ、歯を失う人は少なくありません。

厚生労働省の「令和4年歯科疾患実態調査」でも、高齢者の多くが歯を失っていることがわかっています。

ただし、この調査では「入れ歯を実際に使っているかどうか」までは明確に示されていません。

一方で、「入れ歯を作ったけれど使っていない」「違和感があって外してしまう」といった声も聞かれます。

こうした状況から、入れ歯を使わずに過ごす高齢者は一定数存在すると考えられます。

入れ歯を入れないとどうなる？高齢者の生活に起きるリスク3選

高齢者が入れ歯を入れないまま過ごすと、高齢者の生活にさまざまな変化をもたらします。

主なリスクは次の3つです。

1.  噛みにくくなり食事内容が偏る
2. 顔の形や発音が変わり自信を失う
3. 体のバランスや健康にも影響が出る

一見小さな変化に思えますが、積み重なると生活全体に大きな影響を与えかねません。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.噛みにくくなり食事内容が偏る

高齢者は入れ歯を使わないと、噛む力が弱くなり、食べられるものが限られていきます。

硬い食材や繊維の多い野菜、肉類などを避けるようになり、自然と柔らかいものばかりを選びがちです。

結果として、ご飯やうどん、ゼリーなどの柔らかい食品に偏り、タンパク質やビタミン、ミネラルといった栄養素が不足するのです。

栄養バランスが崩れると、体力の低下や免疫力の低下を招き、病気にかかりやすくなるリスクも高まります。

食事は健康の基本となるため、噛めないことで食生活が偏ることは避けたいところです。

2.顔の形や発音が変わり自信を失う

高齢者が歯が欠けたまま放置していると、顔の形が徐々に変化していきます。

噛む筋肉が衰えることで頬がこけたり、口元にしわが増えたりして、老けた印象を与えやすくなるでしょう。

また歯がないことで舌の位置が安定せず、発音が不明瞭になる可能性もあります。

特に「さ行」や「た行」などの音が聞き取りにくくなり、会話に自信が持てなくなる方もいます。

見た目や話し方の変化で人前に出ることをためらうようになり、外出や会話の機会が減少してしまうケースも少なくありません。

3.体のバランスや健康にも影響が出る

高齢者の噛む力が弱まると、口の中だけでなく全身の健康にも影響します。

よく噛むことは脳を刺激し、認知機能の維持に役立つとされていますが、噛む回数が減るとその刺激も少なくなってしまいます。

さらに噛む回数が減ると食材を細かく砕けず、飲み込むようになると胃腸への負担も大きくなるのです。

また噛む筋力が低下すると、踏ん張りが効かなくなり、転倒からの骨折リスクが高まるおそれもあります。

高齢者の体に関する以下のような記事があるので、あわせて読んでみてください。

高齢者が入れ歯を入れない理由とは?

高齢者が入れ歯を使わない理由には、以下のような共通した理由があります。

• 痛みや違和感があって続かない
• 手入れが面倒で使わなくなる
• 費用や通院の負担を感じている

理由を理解することで、家族や周囲ができるサポートが見えてきます。

それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。

痛みや違和感があって続かない

高齢者が入れ歯を使わない最も多い理由は、痛みや違和感です。

入れ歯を初めて装着した際の口内の異物感や、痛みに慣れるまでには時間がかかります。

不快感が続くと、「我慢してまで使いたくない」と感じてしまい、使用をやめてしまう方が多いです。

少しの痛みでも大きなストレスとなり、入れ歯を避ける原因になります。

手入れが面倒で使わなくなる

入れ歯は毎日の手入れが欠かせませんが、掃除を負担に感じる方も少なくありません。

入れ歯を使用したら外して洗ったり、専用の洗浄剤に浸けたりといった作業が必要です。

外出先で入れ歯を外して洗うことに抵抗を感じる方もいます。

また高齢になると手先が不自由になり、記憶力の低下で定期的な手入れを続けることが難しくなります。

手入れの手間が面倒に感じられると、次第に使わなくなってしまうのです。

歯医者の費用や通院の負担を感じている

入れ歯の作製や調整には費用がかかり、歯医者への通院も必要です。

保険が適用される入れ歯でも数千円の費用がかかり、自費診療の入れ歯であればさらに高額になります。

また入れ歯が合わなくなったときには、調整や作り直しが必要で、その度に通院しなければなりません。

高齢者の中には、年金生活で経済的な余裕がなかったり、体力的に通院が難しかったりする方もいるでしょう。

医療費や通院の負担が、入れ歯を使わない理由になっているケースもあります。

高齢者が入れ歯を使う3つのメリット

高齢者にとって入れ歯の正しい使用は、生活に以下のようなプラスの変化を生みます。 

1. 食事を楽しめるようになる
2. 人と話す機会が増える
3. 表情が明るくなり自信を取り戻す

入れ歯を使うことで失われていた機能が回復し、生活の質が大きく向上します。

それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

1. 食事を楽しめるようになる

入れ歯を使うことで、噛む力が回復し、食べられる食材の幅が広がります。

これまで避けていた肉・野菜・果物なども食べられるようになり、食事のバリエーションが豊かになるでしょう。

また栄養バランスの良い食事が摂れるようになり、体力や免疫力の向上や健康状態も改善される傾向にあります。

高齢者の食欲が戻り、体重が安定することで、全体的な生活の質が高まります。

2. 人と話す機会が増える

入れ歯を使うことで発音が明瞭になると、人との交流の機会が増えます。

歯がないと息が漏れたり、舌の位置が安定しなかったりと言葉が不明瞭になりがちですが、入れ歯を入れることで解消されやすくなります。

はっきりと話せるようになると、人と会話することへの抵抗感が減り、自然と会話の機会も増えるでしょう。

家族や友人との交流が活発になれば、孤立感が減り、精神的な健康も保たれます。

人と話すことは脳への刺激にもなり、認知機能の維持にも良い影響を与えます。

3. 表情が明るくなり自信を取り戻す

入れ歯を使うことで、口元の見た目が整い、顔の印象が若々しくなります。

歯がない状態では頬がこけて老けた印象になりますが、入れ歯を入れることで顔のバランスが整い、自然な表情に戻ります。

人前に出ることへの抵抗感が減って笑顔で話せるようになると、周囲の人との関係も良好になり、生活に活気が生まれるでしょう。

自信を取り戻すことは、高齢者の生活の質を大きく向上させる重要な要素となるのです。

入れ歯を入れられない高齢者への工夫

もし高齢者が入れ歯を使わない、入れられない場合でも、工夫次第で健康を意識した生活を送ることは可能です。

家族ができる工夫は、次の2つです。

1. やわらかくても栄養が取れる食事づくり
2. 歯医者で定期的に相談する

本人の気持ちを尊重しながら、周囲がサポートすることで、安心して暮らせる環境を整えることができます。

それぞれの工夫について詳しく見ていきましょう。

1.やわらかくても栄養が取れる食事づくり

入れ歯を使わない場合でも、食事の工夫で栄養バランスを保つことができます。

やわらかく調理した食材を活用すれば、噛む力が弱くても必要な栄養素を摂取できます。

例えば、煮込み料理や蒸し料理で肉や魚をやわらかくしたり、豆腐や卵を使ってタンパク質を補ったりする方法があります。

野菜もポタージュスープにしたり、細かく刻んで煮込んだりすることで食べやすくすることが可能です。

また栄養補助食品を活用することも一つの方法で、食事の形態を変えても栄養価を保つことが重要です。

高齢者におすすめの栄養補助食品は、以下の記事で詳しく解説しています。

2.歯医者で定期的に相談する

入れ歯が合わない、痛くて使えないからといって諦める必要はありません。

歯医者では、入れ歯の調整や作り直しを行うことができます。

定期的に歯科医師に相談して、痛みや違和感を特定し適切な対処をしてもらいましょう。

口内の状態は年齢とともに変化するため、定期的な受診が必要です。

今残っている歯を大切にするためにも専門家のサポートを受け、より快適な状態を保ちましょう。

高齢者の口腔ケアについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

高齢者の意向に合った入れ歯の使い方や環境を整えましょう

入れ歯を入れないまま過ごすことは、食事・会話・健康に少しずつ影響が現れます。

しかし、本人が入れ歯を使いたくないと感じている場合の無理な強要は逆効果です。

本人の気持ちを尊重しながら、食事の見守りやサポートを続けてください。

やわらかくても栄養価の高い食事を用意したり、定期的に歯科医師に相談したり、生活に寄り添うことで安心して暮らせる環境を整えてあげましょう。