高齢者の家庭内で起こる事故5選と今すぐできる予防法｜一人暮らしの親の安全を守るために

「実家で一人暮らしをしている親がケガしないか心配…」「高齢者の家庭内で起こりやすい事故について詳しく知りたい」

上記のように離れて暮らす親御さんの安全に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

2023年には家庭内での不慮の事故により1万6,050人が亡くなっており、そのうち65歳以上が約9割を占める結果です。

実際、高齢者の家庭内事故は転倒や溺水、火災など身近な場所で多発しています。

引用：公益財団法人　生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」

本記事では、高齢者の家庭内事故の実態から、原因・予防策までを詳しく解説します。

離れて暮らすご家族の安全を守りたい方、介護に関わる方はぜひ参考にしてください。

高齢者の事故は家庭内で多発している

高齢者の家庭内事故は決して特別なことではなく、日常生活の中で誰にでも起こりうる身近な危険です。

「自宅は安全」と思われがちですが、実際には家庭内での不慮の事故が高齢者の死亡原因の大きな割合を占めています。

消費者庁の資料によると、2022年における65歳以上の高齢者の事故死は、主に以下のような内訳となっています。

• 転倒・転落事故：9,509人
• 窒息事故：7,246人
• 溺死・溺水事故：6,458人

引用：消費者庁「無理せず対策　高齢者の不慮の事故」

上記のデータからわかるように、家庭内事故は発生件数が多いだけでなく、死亡や要介護化につながる重大なリスクを抱えているのです。

家庭内で起こりやすい事故5選

高齢者の家庭内事故には、特に注意すべき5つのケースがあります。

発生頻度が高く、重篤な結果を招く可能性があるため、事前の対策が必要不可欠です。

1. 転倒・転落事故
2. 溺水・ヒートショック
3. 火災・着衣着火
4. 窒息や誤飲
5. 熱中症

それぞれの特徴と対策について詳しく見ていきましょう。

1.転倒・転落

転倒・転落は高齢者の家庭内事故で最も多く発生する事故です。

主な原因として、階段での足の踏み外し・玄関や部屋の間の小さな段差でのつまずき・絨毯のめくれ・すべりやすい床材などが挙げられます。

浴室での転倒も非常に多く、濡れた床面や石鹸の泡による滑りが原因です。

また夜間のトイレへの移動中に、暗い廊下で家具にぶつかったり段差に気づかなかったりして転倒するケースも頻発しています。

転倒により大腿骨頸部骨折や頭部外傷を負うと、長期間の入院や要介護状態につながる傾向にあるため気を付けましょう。

高齢者の転倒については、以下の記事も参考にしてください。

2.溺水・ヒートショック

高齢者にとって浴室での溺水事故は、高齢者の死亡事故の大きな原因の一つとなっています。

特に冬場に多発するヒートショックが主な要因です。

温かい居室から寒い脱衣所、浴室への移動により血圧が急上昇し、その後熱い湯につかることで血圧が急降下します。

この急激な血圧変化により失神や心筋梗塞、脳梗塞を起こし、浴槽内で溺れる事故につながるのです。

一人で入浴中に意識を失ってしまうと発見が遅れ、重篤な結果を招く恐れがあります。

3.火災・着衣着火

コンロ使用中の不注意による火災や着衣着火は、高齢者にとって深刻な事故の一つです。

料理中に袖口が炎に触れて引火したり、コンロの火を消し忘れて鍋を空焚きしたりするケースが発生しています。

特に化繊素材の衣類は燃えやすく、一度着火すると瞬時に燃え広がる危険性があります。

またストーブやこたつなどの暖房器具による火災も多く、布団や衣類が接触して発火するケースが後を絶ちません。

高齢者の認知機能の低下によって、火の始末や電源を切ることへの注意力が欠けて事故につながる傾向にあります。

火災は本人だけでなく近隣住民にも被害を及ぼすため、特に注意が必要です。

4.窒息や誤飲

高齢者の加齢に伴う飲み込み機能の低下により、窒息や誤飲事故も存在します。

特に餅やこんにゃく、肉類などの弾力のある食べ物や、ナッツ類などの硬い食べ物による窒息が多いです。

また認知機能の低下により、既に服薬した薬を忘れて服用したり、洗剤や漂白剤などを誤って飲んでしまったりする事故も報告されています。

誤飲の事故は発見が遅れると生命に関わる危険な状態となるため、日頃からの注意と対策が必要です。

5.熱中症

高齢者は体温調節機能の低下や発汗機能の衰えにより、熱中症になりやすい傾向があります。

熱中症は病状ですが、家庭内での事故に近い存在と言えるでしょう。

高齢者は夏場のエアコンの使用を控えたり、暑さを感じにくくなったりすることで、熱中症になりやすいです。

また、水分摂取量の減少も熱中症のリスクを高めます。

トイレの回数を気にして水分を控えたり、のどの渇きを感じにくくなったりすることで、知らず知らずのうちに脱水状態になってしまうのです。

熱中症は重篤化すると意識障害や多臓器不全を引き起こし、生命に危険を及ぼす恐れがあります。

高齢者の熱中症の危険性については、以下の記事で詳しく解説しています。

高齢者の身に起こる家庭内事故につながる要因

高齢者の家庭内事故が多発する背景には、加齢に伴う身体機能の変化と住環境の問題があります。

これらの原因を理解することで、効果的な予防策を講じることができます。

• 筋力やバランス感覚など身体機能の低下
• 視力や聴力など感覚機能の衰え
• 認知機能の低下による判断ミス
• 家の構造や設備など住環境の不備

それぞれの原因について詳しく解説していきます。

筋力やバランス感覚など身体機能の低下

高齢者は加齢とともに筋力とバランス感覚が徐々に低下していきます。

特に下肢の筋力低下は歩行の安定性に大きく影響し、小さな段差でもつまずきやすくなります。

反応速度の遅れも事故の原因で、転倒しそうになった時に手を出して体を支える動作が間に合わない場合があります。

また関節の可動域が狭くなり、思うように体を動かせなくなることも転倒リスクを高める要因です。

個人によって身体機能の変化に差があるものの、誰にでも起こりうる自然な老化現象と言えるでしょう。

視力や聴力など感覚機能の衰え

視力や聴力の低下は高齢者の事故リスクを大幅に増加させます。

白内障や緑内障などの眼疾患により、段差や障害物の認識が困難になったり、夜間の視認性が著しく低下したりします。

明暗の適応能力が下がり、明るい場所から暗い場所への移動時に一時的に見えなくなるのです。

また聴力の衰えも事故の原因となり、火災報知器の音や家族の呼びかけに気づかなくなります。

さらに平衡感覚を司る内耳の機能低下で、立ち上がる際のふらつきや方向転換時のよろめきが起こる傾向にあります。

感覚機能の低下は徐々に進行し、本人や家族が変化に気づきにくいため発見が遅れてしまうのです。

認知機能の低下による判断ミス

高齢者の認知機能の低下は、判断ミスを引き起こす原因の一つです。

注意力や集中力の低下により、複数の作業を同時に行う際にミスが生じやすくなります。

また空間認知能力の衰えで、距離感や高さの判断を誤り、転落事故を起こすケースも考えられます。

家の構造や設備など住環境の不備

住環境の問題も高齢者の家庭内事故の大きな要因です。

例えば、暗い場所は視認性を低下させ、段差や障害物の発見を困難にします。

手すりの不足も問題で、転倒しやすい場所への適切な設置がされていないケースも多いです。

さらに、古い住宅では電気設備の不備でコードが露出していたり、水回りの設備が老朽化していたりすることも事故につながります。

特に事故が起こりやすい廊下・階段・浴室などの環境には、注意が必要です。

高齢者の家庭内事故を減らすためにできること

高齢者の家庭内事故は適切な対策により大幅に減らすことができます。

住環境の改善と日常的な見守り体制を整えましょう。

• 段差解消や滑り止めマットの設置
• 浴室・台所の安全グッズの活用
• 飲み込みに配慮した調理
• 事故や異変に気づける見守り体制

それぞれの対策について、一つずつ解説していきます。

段差解消や滑り止めマットの設置

住環境の物理的な改善は、事故防止の基本です。

玄関や部屋の境界にある小さな段差でも、スロープを設置することで転倒リスクを大幅に減らすことができます。

階段には適切な手すりを両側に設置し、滑り止めテープを各段に貼ることも安全性が向上します。

浴室やキッチンの床には滑り止めマットを敷き、濡れた状態でも安全に歩けるようにしてください。

また絨毯のめくれや床材の段差を解消し、つまずきの原因を取り除くことも重要です。

住宅設備の改修には費用がかかりますが、介護保険制度や自治体の住宅改修費の補助金を活用できる場合もあります。

高齢者の転倒予防については、以下の記事で詳しく解説しています。

浴室・台所の安全グッズの活用

浴室と台所は特に事故が起こりやすい場所であるため、専用の安全グッズの活用が効果的です。

浴室には浴槽用手すりや滑り止めマット、シャワーチェアを設置し、安全な入浴環境を整えましょう。

また、浴室暖房や脱衣所のヒーターによりヒートショック対策も重要です。

台所では防炎エプロンの着用により着衣着火を防止し、コンロタイマーやIHクッキングヒーターの導入で火の消し忘れを防ぎます。

包丁やピーラーなどの刃物を安全性の高い製品に変更すれば、切り傷の予防に努められます。

さらに、踏み台は安定性の高いものを選ぶと、高い場所の作業時の転落事故を防ぐことが可能です。

これらのグッズは比較的安価で導入でき、即効性のある対策として有効です。

飲み込みに配慮した調理

食事による窒息事故を防ぐために、調理方法を工夫しましょう。

肉類は細かく刻んだり、柔らかく煮込んだりして飲み込みやすくします。

野菜も適切な大きさに切り、硬い食材は十分に加熱して食べやすくします。

餅やこんにゃくなどの弾力のある食品は、代替食品への変更も検討してください。

とろみ剤を使用して液体にとろみをつけ、誤嚥を防ぐことも効果的です。

また、食事の際は急がずゆっくりと咀嚼し、一口量を少なくすることを心がけます。

管理栄養士や言語聴覚士に相談し、個人の嚥下機能に応じた食事指導を受けることも推奨されます。

事故や異変に気づける見守り体制

高齢者の安全を確保するには、日常的な見守り体制が不可欠です。

家族が同居している場合は、定期的な声かけと様子の確認ができますが、一人暮らしでは困難です。

異変を早期に発見するために離れて暮らす親には、緊急通報装置やペンダント型の見守り機器を活用しましょう。

見守りシステムの導入で、24時間体制での安全確保も可能になってきています。

定期的な訪問サービスやデイサービスの利用など、専門職による健康状態のチェックを受けることも効果的です。

一人暮らしの高齢者がいる家庭におすすめの見守りサービスは、以下の記事で詳しく解説しています。

高齢者の家庭内事故は未然に防ぎましょう

高齢者の家庭内事故は適切な対策によって、未然に防ぐことが可能です。

住宅の環境改善と継続的な見守りを続けるようにしてください。

特に親子が離れて暮らす場合は、日常的な安否確認ができる状態にしておく必要があります。

高齢者が住み慣れた自宅で安全に生活を続けられるように、できることからはじめましょう。